「顧客理解」を考える|ファンベースは何が新しいのか

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eyecatch_think

顧客を理解する、は、CRMの王道

最近、まぢで、ファンベースファンベース言い過ぎだろ、と我ながら思うのですが、美味しいと思ったら1ヶ月連続で担担麺でもいいやと思うタイプなので、仕方ないと思うんですよね。太るからやらないけど。

ファンベースという考え方は、非常に面白く、またキャッチ―だなと思います。この考え方を自分なりに咀嚼しつつ、僕たちがこれまで20年くらいやってきた「顧客理解」「CRM」の考え方を再整理してみると、いろいろ考えられることがあるんじゃないか・・・というあたりまでやってきました。(まだ道半ばだという自覚はあります)

そこで、今回は改めて「顧客理解」について考えてみたいと思います。

ファンベースは「ファン>企業」というところが新しい

ファンベースの考え方を一言で言うと、

ファンが誰なのかを理解し、そのファンが求めるものを理解し、彼らが求めるものをしっかり提供すれば、ファンが喜び、喜んだファンがどんどんファン予備軍を連れてきて、売上&利益が増える

ということだと、僕は理解しています。(違っていたらごめんなさい)

この考え方は、非常にシンプルですし、実際の取り組みにもつながりやすいなと思います。こういう風に「わかりやすく、すぐに使える考え方」として整理されていることに、僕は、とても感銘を受けています。

ただ、これは、書籍化したり、ノウハウとして世の中に出したりする過程で「意図的にシンプルにした」ということなんじゃないかなとも思います。例えば、実際のプロジェクトにおいては、ファンは、そんなに簡単には炙り出せないんじゃないか、と思うんですよね。そういう厳密に言うとややこしくなっちゃうところを「呑み込んで」理論として整理体系化して世に出しているからこそ、分かりやすい内容になっているのではないかと思うわけです。本当は、もっと泥臭いことがたくさんあるが、僕たちからは見えていない。白鳥のバタ足が見えない的な話だろうと、勝手に想像しています。

そのため、僕がこの記事を含めて最近いろいろと書いてみているのは「白鳥の水面から上の部分だけを見て、ああだこうだと言っている」というものなので、そのあたりは割り引いてお読みいただければと思います。

一方で「企業起点で考える」というアプローチもある

僕の所属するギックスは、創業直後の2013年頃から、Headshot Marketing (HSM)、 Understandable Value Proposition (UVP)などという言葉を用いて、マーケティングにおける顧客理解を推進してきました。

この考え方は、創業経営者/CEOの網野が発案して提唱していまして、記事なども書いていますので、ご興味のある方は、ぜひご一読いただければ嬉しいです。
関連記事:【連載】Headshot Marketing -「狙いたい顧客」から「使うべき顧客へ」-

この考え方を用いて、顧客分析を行う際には、基本的に「理想の使い方」を見出していくというアプローチをとります。どういう風につかってくれてるの?という話です。この部分は、ファンベースと非常に近い。

その一方で、僕たちは「企業として、顧客にどう使ってほしい?」「理想的な ”使われ方” は、どういうものだと想定している?」という風に、企業起点での考え方を重視しています。

ファンベース的に言えば「ファンよりも、自分たちの方が商品に詳しい、というのは企業側の思い込み」という話になると思うのですが、いずれにしても、ここに大きな差があります。(当然ながら、この違いは至極当然で、むしろ、ファンベースは、そういう「企業起点の考え方じゃダメだ」という主張をしているからこそ「新しい」のだと理解しています)

ここは、完全に宗教論争に近い世界で、どちらかじゃないとダメだというものではなく、「信じる神が違うだけで、目指す世界平和は同じである」と捉えていくべきだと僕は思っていますが、「経営とは意思である」という強い思想が根底にある我々としては、どうしても「企業がどのようにありたいか」を突き詰めて考えるというアプローチをとりたくなってきます。

複数の種類の「ファン」がいても良い

そうして分析したり、検討したりする際に、僕たちは「複数の ”理想の顧客” がいてもいいんじゃないか」と考えます。(もちろん、ファンベースも(書籍内では分かりやすくシンプリファイしているだけで)複数タイプのファンがいることを想定しているのだろうと類推してはいます。が、それこそ白鳥のバタ足の話で、明確には見えてこないように思っています。ちゃんと書いてあるのに、僕が読み飛ばしてしまっていた場合はごめんなさい。)

僕たちは、まずは「顧客をセグメントに分ける」ということを行います。「誰がファンか」の前に、「どういう顧客群なのか」という話です。

その際に、性別、年代、居住エリアなどのいわゆる「デモグラ(デモグラフィック)」で分類するのではなく、「行動」で分類しようというのが僕たちの特徴です。(「ゾクセイ」という考え方です)

行動データで顧客を分類する(=セグメントに分ける、セグメンテーションをする)を、小売店で行った際には、

  • 週末の昼間に購買する傾向が高いグループと、平日の夜に購買する傾向が高いグループ
  • 給料日前に購買量が下がるグループと、あまり変動しないグループ
  • セールでの購買が多いグループと、定価での購買が多い(むしろセールに来ない)グループ
  • 特定の商品(あるいは商品カテゴリ)だけを買うグループと、いろいろな商品(カテゴリ)を買うグループ
  • 1回あたりの購買量が多いグループと、少額で何度も買うグループと、購買量のボラティリティが激しいグループ
  • 特定の店舗だけに行くグループと、複数の店舗に行くグループ

というような分類がされていくことになります。

こうしたグループ分けに、さらにRFM分析による「顧客の優良度」の概念を掛け合わせることで、「自社にとって、良い顧客グループ」の候補を洗い出すことができます。

それを踏まえて、「自社の理想の顧客とは、どういうタイプ(グループ)の人たちなのか」を考える、というのが、僕たちが得意とする顧客起点の考え方です。

ここでポイントになるのは、なにも、理想の顧客が1タイプとは限らない、というところです。「平日の昼間に、近所から歩いて来店し、のんびり過ごす親子」と、「週末に車で家族連れで来店し、買い物も食事もしっかりやってくれる家族」の両方が「理想の顧客」の可能性があります。

また、この両者が「同じ人」の可能性すらあります。平日は下の子とお散歩がてら歩いてくるが、週末は買い物もするので家族5人で車に乗って来店しているかもしれません。その「どちらか一方が理想の顧客」とは言えなくなりますよね。

例え、同一人物であっても行動(ビヘイビア)の種類ごとに「別人格」と捉えて、それぞれの利用シーンを捉えていきたい、というのが、僕たちの得意とする、ゾクセイを軸にした「ビヘイビア・ベースド・マイクロセグメンテーション」の考え方です。

そうして区分したセグメントと「企業として、こういう風に使ってもらいたい」という意思を掛け合わせて、理想の顧客像を定義する、というのが僕たちのアプローチです。

「理想の顧客」に向けた育成パスを考える

顧客理解と企業の意思によって「理想の顧客」が定義されると、僕たちは、その次に「理想の顧客になっていくためのパス」を考えます。これも、ファンベースの思想とは少し違いますよね。ファンベースは「全員をファンにしようとするな」というのもポイントの一つですし、そもそも「ファンにする」という概念を避けていると僕は理解しています。

ただ、僕たちは企業起点の考え方が強いので「理想の顧客にするために、どのようなパス(path、道筋)を通ってもらうか」を考え、顧客育成のためのコミュニケーション方針を設計します。

その際、商品そのものや、販売経路、価格といった、マーケティングの4Pの「プロモーション」以外の部分についても考慮したり、さらに上位のSTP(Segmentation/Targeting/Positioning)の領域についても、変革プランを作成したりします。

理想の顧客を増やすために、どのように自社の商品・サービスを再設計し、顧客を「誘導」するのか、という思想になっています。当然ながら、短期的な購買促進だけでなく、中長期的な関係構築と、それによるLTV最大化を目指します。

この部分だけ切り取ると「やっぱりコンサルは、エンドユーザーの幸せよりも、企業の利益の話をしているな」と受け取られるわけですが、実際には、「エンドユーザーが真に何を望んでいるのか」という側面についても考慮します。反対に言うと、ファンベースも、「ファンが望むこと」を起点にしつつ、当然ながら、企業が儲かるという部分を無視するわけではないので、結局は、同じ話を逆サイドからしている、というお話になります。

ただ、この「逆サイド」というのは非常に重要なポイントで、「買わされている」と感じたエンドユーザーは、売り手を敬遠し、離れて行ってしまいます。あくまでも「自分が選んだ」「自分が欲しいものを買った」という風に捉えるからこそ、継続的にその商品・サービスを使い続けてくれるのです。

その意味で、ファンベースの「ファンが望むことを実現する」というのは、非常にシンプルかつ皆に響くゴール設定だと思います。ほんとにすごい。

結論:表裏一体だと思うんです

というわけで、ありきたりな結論になってしまって極めて恐縮なのですが、要するに「我々のアプローチ」と「ファンベース」は、表裏一体なんだと思うんですよね。

いわば、北斗神拳と南斗聖拳のような関係です。(「ほくとしんけん」は一発変換できたのに、「なんとせいけん」はでてこなかったことに、地味に傷ついています。もはや、IMEともジェネレーションギャップがあるのか・・・)

南斗乱れるとき、北斗現れる、という話で行くと、従来型CRMの我々が南斗で、そこに北斗が登場したということなのかもしれません。僕たちは、そこで争って敗れるのではなく、南斗水鳥拳のレイのように、北斗とも仲良くしていきたいなと思う次第です。(結局しぬんじゃん、とか、元斗皇拳とかでてきたらどうするんだ、とかいう話はそっとしておいてください。)

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