「柏の葉スマートシティ」でデータプラットフォームに取り組む三井不動産 佐藤 好浩氏が語る、スマートライフパス会員数を3倍にしたマイグルの活用

  • f
  • t
  • p
  • h
  • l
image_01_main

三井不動産では、柏の葉キャンパス駅を中心とする柏の葉エリアで、世界の未来像をつくる街「柏の葉スマートシティ」を目指し、公・民・学の連携で「環境共生」「健康長寿」「新産業創造」の3本柱で街づくりを推進しています。柏の葉は、国土交通省のスマートシティ先行モデルプロジェクトとして取り組みが行われているエリアの1つです。

2021年に三井不動産が運営する商業施設のキャンペーンに当社の「マイグル」を導入いただいたことをきっかけに、「柏の葉スマートシティ」にて子育て等の分野で共同で課題解決に取り組む業務提携契約を締結。スマートシティに参加する企業間でデータを同意に基づき連携する「データプラットフォーム」を展開し、データ連携によるサービス開発に取り組んでいます。

「柏の葉スマートシティ」での取り組みについて、三井不動産株式会社 柏の葉街づくり推進部 事業グループ 主事 佐藤 好浩氏と、株式会社ギックス 地域経済活性化プロジェクトチーム ディレクター 加部東 大悟が対談しました。

  • ギックス・三井不動産・UDCKタウンマネジメントが業務提携 柏の葉スマートシティを舞台に「マイグル」を活用したサービスを共同開発子育て等の分野で課題解決に取り組む(2024/4/24)https://www.gixo.jp/news-press/24419/

「柏の葉スマートシティ」におけるデータプラットフォームの取り組み

佐藤:柏の葉は、もともとゴルフ場だった土地を、つくばエクスプレスの開通を機に街づくりを進めてきました。大型商業施設「ららぽーと柏の葉」の開業や、柏の葉オープンイノベーションラボ(KOIL)、三井リンクラボ柏の葉1、三井ガーデンホテル柏の葉パークサイドなど、街づくりが進んできました。また、従来型の不動産業に限らず、デジタル空間での展開として住民が本人の意志に基づいてデータを事業者間で連携することができる「データプラットフォーム」の取り組みも進めています。

「データプラットフォーム」の取り組みは、エストニアの電子政府を参考にしています。エストニアでは、国民が自分の意志で行政のデータを各庁に連携することができ、これにより行政手続きのほとんどがオンラインで完結します。このモデルに習い、柏の葉の住民の方が自分のデータを自分で管理するデータプラットフォーム「Dot to Dot」を開発し、住民向けのポータルサイトである「スマートライフパス」の取り組みを進めるのが、私達の大きなミッションです。

三井不動産株式会社
柏の葉街づくり推進部 事業グループ 主事
佐藤 好浩氏

2018年まで株式会社野村総合研究所にてマーケティング、データ分析の分野でコンサルティングに従事。2018年より三井不動産株式会社DX本部にてデータマネジメント、データ基盤の構築に従事、2021年から三井不動産株式会社柏の葉街づくり推進部にてデータプラットフォームのサービス開発を担う。

加部東:初めて佐藤さんにお会いした時は、今とは異なるミッションを担われていましたよね。

佐藤:はい。以前はDX本部というところに所属して商業施設に関わる仕事をしていました。加部東さんとのお付き合いは、その際にマイグルを活用したスタンプラリーキャンペーンを実施して以来3年程度になりますか。

加部東:そうですね。佐藤さんがご異動されて、「柏の葉スマートシティ」について情報交換をする中で、「産後の子育て世代の交流促進」など、子育て世代の課題についてお聞きしました。課題解決に向けて議論をする中で、住民の皆さんへ行動変容を促すために使えるような、行動に関するデータが貯まっていないとお聞きして、まずはマイグルでの取り組みからスタートすることになりました。

  • ギックスの個客選択型スタンプラリー「マイグル」、「三井ショッピングパーク ららぽーと新三郷」にて開催するキャンペーンに採用(2021/9/9)https://www.gixo.jp/news-press/17130/

スタンプラリーでママ・パパの横のつながりも作る

加部東:マイグルは単発施策として活用いただくケースもありますが、今回のプロジェクトでは初期段階で「スマートライフパス」とマイグルを連携するご判断をいただいたことが、多くの方に使っていただき、成果に繋がっている印象があります。

株式会社ギックス
地域経済活性化プロジェクトチーム ディレクター
加部東 大悟

2015年入社。2018年より社長室長兼内部監査室長、2021年より管理本部長として事業規模拡大と高生産性の維持を目的に経営基盤領域を強化し2022年の上場を牽引。2023年9月より現職。

佐藤:当社の商業施設で過去活用実績があったことが判断する際に大きかったですね。「スマートライフパス」は、住民向けの会員制ポータルサイトです。ご登録いただくと様々なサービスをお得にご利用いただけ、住民の方がご自身のデータを活用していただくことで、より先進的なサービスを利用することもできます。

例えば、企業がアプリの新しい機能のモニターを募り、参加した方はサービスをお得に利用できるなどの特典が受けられます。このポータルサイトを通じて、柏市、東京大学や千葉大学、参画する民間企業など、さまざまな関係者が柏の葉の住民に向けた情報発信や募集ができるようになっています。当初は複数のモニター募集が独立して掲載されている状態でしたが、マイグルの機能により横串で、たくさんのモニター募集などに参加することに対してインセンティブをつけることができるようになりました。「スマートライフパス」上で実施しているキャンペーンやイベント、掲載されているサービスに継続的に参加してくださる方が増えている手ごたえがあり、新規会員の獲得という観点でも成果が出ています。

様々な事業者のサービスがスマートライフパスに参画しており、同ポータルサイト上でイベント・キャンペーンが募集されている

加部東:2023年12月に柏市で実施した、最初の「子育て支援スタンプラリー」では、ママ・パパに役立つ情報発信と横の繋がり作りを目的にしています。集めるとインセンティブを獲得できるスタンプの獲得方法を大きく4つ設定しました。まずは、柏市内の子育て支援拠点を知っていただくため、子育て支援拠点をスタンプを獲得できるスポットに設定し、足を運んでいただけるようにしました。それから、子育て関連のイベントへの参加や「スマートライフパス」と連携するサービスを利用すること。そして、マイグルとしても新しい取り組みだったのが、「子育て支援スタンプラリー」上のQRコードを使って、子どもを持つ親同士で「ママ友パパ友登録」することでスタンプを獲得できる機能です。

実はこれ、佐藤さんのアイデアで新しく追加した機能ですが、地域のママ・パパの繋がりを作るきっかけの創出につながりました。約400名の方が参加してくださいましたが、親子で楽しみながら地域の子育てネットワークに参加する仕掛けができたと思います。

佐藤:子育てイベントの取材に来ていただいた柏市のアンバサダーの方によると、「ママ友パパ友登録」がとても良いと。LINEを交換するより、マイグル上でママ友パパ友登録をするだけなので気軽に接点が作れます。イベントなどで何度か顔を合わせる中で、仲良くなったらLINEを交換すれば良いので、つながるきっかけとしてハードルの低さが良いとお褒めの言葉をいただきました。

子育て支援スタンプラリーの他にも、年に1度開催されている「柏の葉イノベーションフェス」でも、マイグルを活用しています。スマートシティの取り組みを実感してもらえるようなイベントやアクティビティがいろいろな場所で開催されているため、イベント会場内を巡ってスタンプを獲得していただき、抽選で賞品をプレゼントしています。今年は10月26日、27日に開催予定なので、ぜひ多くの方に参加いただきたいですね。

「スマートライフパス」の会員数は3倍に成長、課題解決に向けたデータ活用の取り組みも

加部東:これまでにいくつかイベントを実施していますが、参加者数に変化はありましたか?

佐藤:子育てスタンプラリーは、スマートライフパス会員の10%ぐらいの方にご参加いただいています。参加者数は毎回増えており、1回実施すると新しく会員登録される方が150~200人ほどいらっしゃるなど効果を感じています。3年前のスマートライフパス会員は1,300人ほどでしたが、現在は約3倍の4,150人まで伸びています。

これまで、様々な実証実験をする度に会員数が増えましたが、各施策ごとに単発でアプリをつくっていたため、継続的に改善されるものではありませんでした。その点、マイグルの良いところは応用が効くところです。アプリと同じような構造を持ちながら、上に乗せるものがイノベーションフェスだったり、子育て支援だったりと、様々な企画のインフラとして活用することができます。そして、機能が充実していることや、UIが洗練されていて使いやすい点も良いです。

加部東:会員数が3倍になったのはすごいですね。三井不動産の皆さんは、マイグルをとてもよく理解してくださっていて、マイグルの技術的な可能性も踏まえ実現できるアイデアを積極的に考えて、上手に利用いただいている結果だと思います。

佐藤:マイグルは会員数を増やすだけではなく、マイグル自身が「一次データを取得できる」点も強みだと考えています。

例えば、柏市の子育て支援拠点は、「はぐはぐひろば」という大きな広場のほかに、児童センター、小規模な保育園の園庭開放もあります。保育園の園庭開放は運営上どうしても曜日と時間が限られており、その伝達手段も園のお便りを見ないとわからないような事情があります。住民の方目線では「自宅から近い空いている施設」に向かうのがベストですが、営業日やアクセスを調べるひと手間があるので、どうしてもわかりやすい大きな施設に集まってしまいました。言い換えるとそこには改善の余地があって、保育園の園庭開放はまだ利用される余地があるのに利用されていないとも考えられます。これを解決しようと検討したときに、取得できているマクロデータの月次の訪問者数や園庭開放参加者の延べ人数データだけでは、仮説を立てて打ち手まで導くことは難しいと思います。

このような中でマイグルを活用したキャンペーンを実施することで、スタンプラリーで「どのような順番で訪問しているか」というデータや、アンケートで「なぜそこに来たのか」という「住民の方の行動」に関する一次データを取得することができるようになり、データをもとに仮説をたて、解決策を講じることができるようになりました。

加部東:社会課題の解決にマイグルを使っていただけるのは嬉しい限りです。他にも柏の葉では子育て世代に対してリスキリング支援もこれから行っていくそうですね。

佐藤:はい。街づくりにおいて雇用を生むこと、住民の方それぞれが社会に参画している意識を持つことは、地域貢献や活性化にプラスに働くと考えています。現在は、子育てが落ち着いて働きたいという方や、働く時間を増やしたいという方に向けて、高齢者の方やスマートフォンが得意ではない方の相談を受ける常駐のITコンシェルジュとして復職いただいたり、ギックスさんから出向いただいている遠藤さんから(詳細後述)データ分析を教わり、データサイエンティストへのキャリアアップを目指してもらったりといった取り組みを行っていく予定です。

将来的には、ITコンシェルジュのほかにも、スマートシティ内のデータ分析部隊として活躍する道のほか、柏の葉スマートシティに参画している企業へのご紹介なども視野に入れています。

本格的なデータ活用に向けて、ギックスからデータサイエンティストが出向

佐藤:柏の葉で行っているデータプラットフォームの取り組みは、エストニアのように国家主導ではなく、民間企業が主体となります。そのため、「日本型」スマートシティならではの課題も存在しています。

「データプラットフォーム」は、UDCKタウンマネジメントという一般社団法人が中立的な立場で運営しており、データを中央集権的に1社が保持するのではなく、「データプラットフォーム」に参画する各企業が、自社が取得したデータを個別に保有するようにしています。今後、住民目線で課題解決を図りながら、企業に対してスマートシティならではの実証実験を企画したり、その中でデータプラットフォームを活用した企業間のデータ連携や分析まで見据えてギックスさんに体制を強化してもらう相談をしました。そこで、ギックスさんからデータのスペシャリストに出向してもらうことになりました。

現在は、まず課題をベースに、欲しい情報やプレイヤーがどこにあり、どのようにデータとして使えるのかを考えるところから始めてもらっています。

加部東:2024年から1名お世話になっています。役割としては、解決したい課題に対して、今あるデータを活用してできる範囲を示し、どのデータがあればできるのかを検討した上で、データの在りかを探し、活用できる形にして分析を行っています。

今後、課題解決型のデータ活用モデルがいくつかできてくると、「日本型」のスマートシティにおける、理想的なデータの蓄積・整理方法の開発もできるのではと。彼女にはその第一人者になるべく期待しています。

  • 「手を挙げることで、より大きなチャレンジに挑戦できる」部門を横断して活躍するデータ分析部隊のマネジャーに聞くhttps://www.gixo.jp/blog/19528/

柏の葉で培ったモデルを他の自治体でも活かす

加部東:今後についてはどのようにお考えですか?

佐藤:すでに神戸市で進んでいますが、現在の柏の葉での取り組みを別の自治体へ横展開する動きを加速させていきたいです。神戸市ではすでに、健康増進施策の課題に対して、市民の運動習慣の継続化を目的とした実証事業を実施し、その後、子育てをテーマにしたサービスを中心に神戸市全域での導入まで進んでいます。

自治体では例えば「健康増進のためのアプリ」を開発することになった場合、健康アプリ開発事業者を公募することになります。サービスを1つ作るだけであれば問題ないですが、「子育て世代向けクーポンアプリ」も作るとなれば、別部署で別事業者に公募をかけて……と、サービスは氾濫する上に運用コストもそれぞれにかかってきます。

加部東:その点、いくらでもサービスを載せられる「スマートライフパス」は、コストも運用もかなり負荷が軽くなりそうですね。

佐藤:はい。我々はID認証基盤に加えてサービスやアプリが乗れる仕組みそのものを既に持ってるので、共同利用という形でイニシャルコストも不要で、ランニングコストだけの利用になります。住民の方は1つのポータルサイトから、新しいサービスを享受できる点も含めてご評価いただいています。

加部東:柏の葉は実験場として、今後さらに実験しやすい仕組みを整えることで、住民の方、自治体、事業運営者のそれぞれに、ベネフィットがある形を模索していきたいですね。

佐藤:さらにほかの自治体での展開も今後進められていきます。今後もギックスさんと協力しながら、スマートシティにおけるデータプラットフォームの取り組みを広げていければと思います。

  • f
  • t
  • p
  • h
  • l