レガシーモダナイゼーションとは:事業の足枷にならない情報システムの在り方

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レガシーな技術で作られた仕組みが、成長戦略の妨げになる

レガシーという言葉を聞くと、どのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。

英和辞書を開けば、「遺産」「伝統」といった訳語が並びます。これらの言葉からは、ネガティブな印象は受けません。むしろ、非常に価値のあるものであり、後世に残すべきもの、積極的に次の世代に受け渡していくべきものであると感じます。

しかし、こと「情報システム」の話となると、状況は一変します。「レガシーシステム」という表現には、時代遅れなシステム、置き換えられるべきシステム、というニュアンスが強く孕まれます。これを「モダナイズする(現代風に変化させる)」ことが、理想であると捉えられるのです。

これが「レガシーモダナイゼーション(Leagacy Modernization)」という言葉の意図するところです。

レガシーな技術 × レガシーな設計思想

もう少し、「レガシーシステム」について掘り下げてていきましょう。

レガシーなシステム、という言葉を用いる際に、考えるべきことは二つあります。「技術(テクノロジー)」と「設計思想」です。「技術」の方は、イメージがつきやすいかもしれません。C言語やCOBOLなどの手続き型言語が使われているとか、汎用機と呼ばれるホストコンピューターなどは、まさに「時代遅れの技術(レガシー・テクノロジー)」と言えるでしょう。どこまでが古くて、どこからが新しい(モダン)なのかについては、いろいろな考え方がありますが、いずれにしても、日進月歩で技術革新が進むコンピューター・システムの世界において、日々、多くの技術が「レガシー」に分類されていきます。そして、この変化の速度は、緩まることはありませんし、ますます加速していくでしょう。レガシーな技術に囚われず、モダンな技術を活用すべきシーンは、どんどん増えていきます。

さて、もう一方の「設計思想」の話もまた重要です。システム構築は、建築に例えられることが多くあります。設計を行う人をアーキテクト(Architect)と呼ぶのも、この類似性に依ります。

レガシーなシステム開発は、立派で豪華な宮殿を作るように設計されていました。一度作り上げたものが、未来永劫、そのままの形で使われ続けていき、何十年後も美しい姿を保つことを前提として考えられていました。しかしながら、例えばヴェルサイユ宮殿が作られた時代には、上下水道もなく、水洗トイレも存在しませんでした。また、電気も発明されていないため、エレベーターをつけるという発想もありません。給湯設備や全館空調なども当然ながらありません。世界各地の伝統ある宮殿は、今でも、美しく豪奢な建築物であることには違いありませんが、当時の設計思想のままでは、快適に使うことは不可能です。

そこで、「変化し続けること」を設計思想に組み込もうというのが、モダンな考え方になってきます。未来を予測することは難しいため、5年後10年後の理想形を完璧に描ききることはできません。そこで、”より良い技術が生まれたら、それを組み込む” ことを前提に、システムを設計していくことを目指すわけです。

古くなった部分を切り捨てて、新しい技術で作り替えて、置き換えていく。この変化への対応、新技術の取り込みを、システムの設計思想そのものに組み込んでしまう。それが、モダンな設計思想だと言えます。

技術だけ新しくても、陳腐化は止められない

ここまでお読みいただいたみなさんは、既にお気づきでしょう。そうです。いくら新しい ”技術” を使っても、”設計思想” が古ければ、それは時間経過とともに「レガシーシステム」になってしまうのです。

その時点で最新の技術を使ったとしても、時間の経過とともに、新たな技術が生まれてきます。プログラミング言語だけをみても、日々、特性の違う言語が生み出され続けています。また、ハードウェアの容量や処理速度の拡張が目覚ましいのは、スマートフォンを見れば明らかです。ひとむかし前のパーソナルコンピューターの性能を、手のひらサイズの携帯型端末が大きく凌駕しています。いまや当たり前となったクラウド活用も、通信技術の進化がなければ成立しません。こうした新しい技術が、どのタイミングで、どのような形で世に出てくるかが想像できない以上は、「生まれてきた技術を、その時点でうまく取り込む」以外の道がありません。

レガシーな設計思想に基づいたシステムは、何か新しいことに取り組もうとすると、全体に影響を及ぼす大きな改修工事を行わなければいけません。そうした改修工事を繰り返すと、完成当初の美しく流麗な設計も、その完全性を失っていくことになります。

そうならないために、適宜、その時点その時点での最適な技術を、適切に導入できるように、部分的に置き換えていく(=漸進的に入替えていく)、モダンな設計思想が重要になってくるのです。

活用技術だけでなく、設計思想をモダンに保つこと。これが「レガシーモダナイゼーション」の最も重要なコンセプトであると言えます。

「業務」を忘れてはいけない

さらに一点、気を付けるべきことがあります。それは「レガシーシステム」には、各社各様の「業務の在り方」が深く組み込まれていることです。

パッケージソフトウェアではなく、スクラッチで大規模な仕組みを作るという伝統的なSIプロジェクトは、各企業の「業務上の強み」「競争力の源泉」を色濃く反映したものとなっています。これを、一律でパッケージソフトウェアに置き換えてしまうのは、企業としての強みを損なってしまうリスクがあります。

この「業務」を反映した部分を残しつつ、技術をモダナイズし、設計思想をモダナイズする。このことを忘れてはいけません。

システムは強力な武器ですが、ビジネスを支えるのは業務です。その業務の力を維持し、より強化していくためには「一括置換の荒療治」ではなく、「順次更新するレガシーシステムモダナイゼーション」が適しているのです。

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