ギックスの本棚/経営戦略全史(三谷宏治 著)|「知っている」と「それを整理して捉えなおす」は別物だ【2015/9月 追記】

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「知ってること」を”如何に”捉えなおすか

本日の「ギックスの本棚」では、アクセンチュア在籍時に非常にお世話になった、三谷宏治さんの著作「経営戦略全史」を取り上げてみようと思います。

コンサルタントにとっては「ある意味で、”当たり前”の物事」を並べた「まとめ本」なのですが、単純に集め・まとめるだけでは終わらず「三谷さん独自の切り口」が本書の凄さの所以です。内容のみならず、切り口についても参考になります。

コンサルの皆さん。サボってませんか?

これまでの著作は、基本的に「考え方」を伝えるというところに重きを置かれていたように思うのですが、この本では「考え方を語らない」ことが、却って”コンサルタント”としての三谷さんの「思考の”地力”」を感じさせてくれて、非常に面白かったです。

先述の通り、僕たちのようなコンサル界隈の住人にとっては、この本で話されている内容の、”個々のパーツ”は、「どっかで聞いたことある」を通り越して「読んで知ってる」「仕事でも使った」というようなものが大半です。しかし、そのパーツ=経営戦略の考え方を時系列で体系化する、というところが非常に新しいのです。時系列で”経営戦略”の考え方・フレームワークの変遷を追い続けるうちに、それぞれのパーツが頭の中で構造化されていきます。また、そうしてできあがった頭の中の地図を元にして、引用・紹介されている書籍群を再読したいという気持ちに駆られます。

この「頭の中で構造化されていく」というステップが心地いいのは”コンサル特有の病(やまい)”なのかもしれません。しかし、この感覚を得るということは(構造化を生業としているにもかかわらず)「これまで、自分の商売道具である”考え方・フレームワーク”を構造化してこなかった」ということの気づきでもあるわけです。

彼女ができない自分を省みる際に ” 自分の好みのタイプ(縦軸)x相手が自分を好みだと言ってくれるか否か(横軸)”の 2 x 2 マトリックスを描いて「右上がいないんだよなー」とか言っちゃう、あるいは、レストランに行くのに”評価軸がちゃんと要素分解されてないから参考にならない”と食べログを批判しちゃったりする、そんな整理・体系化が大好きなコンサルが、商売道具をちゃんと構造化してないなんて!!!という気づきと反省。

というわけで、最近、サボってるなー、という自覚のあるコンサルタント界隈の皆様は、是非ご一読されることをお勧めします。戦略論に限らず、何事に関しても、”考えること”から逃げちゃ駄目です。人間、サボっちゃだめですよね。日々、是、鍛錬です。

ちなみに、三谷さんのオフィシャルサイトで、著作物の整理(マッピング)がされていますが、こういうのも、勉強になりますよね。

 コンサルじゃない人は、どう読むべきか

「はじめに」で「高校・大学生でも十分に読みこなせる」とありますが、その通りだと思います。全般的に内容は平易でわかりやすいです。但し、最後のB3Cフレームワークは、正直「素人には難しすぎる」ように感じます。本文中で「GE・マッキンゼーマトリックスが複雑すぎた」と書かれてますが、B3Cフレームワークも、「すべてが盛り込まれているが故に、難しい」のでしょうね。(そして、だからこそ、「補章」という扱いなのだと推察しますが。)

従って、経営戦略論にそれほどなじみのない皆様は、第7章までをサラッと読み通してみるのがよろしいのじゃなかろうかと思います。

以下、「はじめに」より”この本の使い方”を引用します。

この本の使い方としては、以下のようにいくつかの方法があるでしょう。

  • 教科書的に:経営戦略論の流れや史実、関連項目が一覧できる
  • 辞書的に:気になる単語の意味や位置づけを索引から調べる
  • 百科事典的に:関心ある項目について関連情報が分かる
  • 物語的に:どうやって経営戦略論が生まれ、進化してきたかを楽しむ

すでにこういったことを深く学んだことのある人でも、きっと新たな視点や知見が得られます。その点については結構自信があります。なぜなら私自身が、そうでしたから。そして、経営論の初学者にもお奨めです。高校、大学生でも十分に読みこなせる内容となっています。

(おまけ)”カリスマ”達と我が身を比べると・・・

この本には、コンサルティング界の立役者や、経営戦略論のカリスマたちが数多く登場し、その「さらっとした略歴」も付記されています。

そこには

  • フレデリック・テイラー: 35歳で独立してコンサルタントに
  • マーヴィン・バウアー: 36歳でマッキンゼーを引き継いでコンサルティングファームとしてスタート
  • マイケル・ポーター: 35歳でHBSの正教授になる

などと書かれているわけです。なんと・・・

僕は今年、36歳の年男です。彼らはこの年齢で、そんなことをしていたのかと思うと、自分の現状に対して腹が立ちますね。もっと真剣に、もっと前向きに、”経営”に取り組み、クライアント企業も、自社も、引いては日本全体を、より強く、より楽しくしていく一助となりたい!と強く感じます。

このように、”自分の年齢”の時に、経営戦略論のカリスマたちが何を為し得ているかをチェックしていただくのも、「本書のひとつの使い方」ではないかと思いますよ。どうぞ、お試しあれ。

2015年9月追記

Harvard Business Review / ハーバード・ビジネス・レビュー BEST10論文 という書籍があります。そちらと組み合わせて読むことで、広大で深遠な”経営戦略”の世界に対する理解が深まることと思います。

この10本の論文を読んでから、経営戦略全史を読み返してみると、三谷さんの言う「経営という山を作った人々」→「登りやすい道を探せ、といったポジショニング派」→「登りやすい方法で登れ、と言ったケイパビリティ派」→「手を携えて一緒にやれば、と言ったコンフィギュレーション派」→「そんなことよりもイノベーションだ、と主張する人々」という流れが非常にしっくりきます。嗚呼、ほんとうに体系的にまとめられてる良書だなぁ・・・これって。

折角ですので、HBR BEST10論文の書評も、合わせてお読みいただけましたら幸いです。(関連記事:ギックスの本棚/HBR Best10論文

経営戦略全史 (ディスカヴァー・レボリューションズ)

 

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