戦コンスキルは起業に役立つか?(3):戦略コンサルタントの心構え

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第3回 戦略コンサルタントの心構え

 この記事は戦略コンサルタントとしての経験が起業の役に立つのかという問いに答えるために、「私がコンサルタント時代に得た教え」をあくまで主観をもとに共有することで、各自の判断材料にして頂くという企画になります。

 そのために、戦略コンサルタントがどのような「前提」で、「心構え」で、「行動規範」で仕事を行っているのかを知って頂くことを狙いとしています。

 今回は第3回目になります。

 前回は、「プロフェッショナル」に関して波頭亮さんのプロフェッショナル原論 (ちくま新書)をベースにお話を進めました。

 今回は「コンサルタントの心構え」に関してです。コンサルタントがどのような「心の準備」を備えているかになります。口悪く言えば、どのように「思い込み」をしているかとも言えます。(笑)

 私が所属していた組織では4つの「心構え」を刷り込まれていました。(笑)

1. コンサルタントとは経営トップに付加価値をつける存在である

2. コンサルタントはアウトプット至上主義の仕事である

3. コンサルタントは恒常的自己研鑽が存立の基盤である

4. コンサルタントは大変だが精神的満足の大きい仕事である

「コンサルタントとは経営トップに付加価値をつける存在である」

 例えばどういうことでしょうか。

・クライアントの潜在的な課題を明らかにする

・クライアントが持てない発想を見せる

・大局観と現場感を持つ

といった事が挙げられます。

 ぶっちゃけて書きますと、私がいた組織では経営トップがBuyerとなる仕事もありましたが、部長・課長などがBuyerとなるケースもありました。それは超大手企業ですと、数千万の予算も部長級で執行できるからです。

 ですので、常に経営トップに対して付加価値をつける存在でいられた訳ではないのですが、そういう心持ちで実行しろという事でした。(笑)

 幸いにも、私は比較的トップマネジメントとご一緒させて頂くケースが多く、コンサルタントとしてお金を頂きながらも、クライアントから多くの事を学ばせて頂きました。

 潜在的な課題と書きましたが、経営者や事業部門の責任者だけでなく、担当者も「答えるべき問い」が明らかになった時には、既にその答えを保有しているように感じます。

 ただ、「答えるべき問い」の設定が決して適切ではないことは往々にしてあります。その「答えるべき問い」の定義こそが実は潜在的な課題であるとも言えます。

 そして、大局観と現場感。Buyerがトップマネジメントであっても、我々の窓口となり日々仕事を一緒にしていく相手(通称カウンターと呼ばれる人)は通常は部長や課長、場合によっては担当者になります。実はそういった面々が日々課題だと思う事と、トップマネジメントが課題に感じる事には大きな乖離があります。つまり、「答えるべき問い」が異なるのです。

 そのため、カウンターが満足する内容を作って行くと、最終報告の際にトップマネジメントからは「せせこましい話」だと思われてしまいます。かといって、とってもハイレベルな話だと、実行フェーズに移った際にそもそも何をしたら良いのか現場が全く分からない状況になってしまいます。戦略と戦術。方向性と具体的活動。これらのバランスが大局観と現場感を担保するものになります。

 私は「Deep Dive & Sky High」と表現しておりました。どうせ現場に入るなら、誰よりも深く現場に潜ることで会議室では知り得ない事象まで把握する。そして、その結果も踏まえつつ、全体感、大局観を持ち、高い視座でその企業が勝てる戦略を作り、会議室でしか事件を知ることができないトップマネジメントに対して、会議室で事件を起こす。これが貫徹できたプロジェクトは快感そのものです。残念ながら私も数回くらいしか経験がありません。(笑)

「コンサルタントはアウトプット至上主義の仕事である」

 続いて2つ目です。

 コンサルタントである以上、全てはアウトプットが必要とされ、アウトプット無しにそもそもの存在意義はないということです。

 第2回でも記述しましたが、ここでは一般的な表記としてアウトプットと書いています。私が所属していた組織ではアウトプットよりアウトカム、と言われていました。ですが、一旦はここではアウトプットという言い方で記載して行きます。

 コンサルタントが言うアウトプットはいくつかのケースがあります。当然プロジェクトを実行した成果もアウトプットですし、一番小さい単位であれば、何かを考えて作ったslideもアウトプットです。「これをリサーチして」と頼まれて、調べた結果をまとめた資料もアウトプットです。

 つまり、まず何かモノゴトを考えたら紙(Slide)に落とせと常々言われていました。これがアウトプットの基礎です。とにかくまずは紙に落とす。

 素晴らしいアイデアに思えても、紙に表現すると、実は大した事がないことは多々あります。また、紙に落とさないと、他人には共有されないのです。そのため、とにかくまずは形に落とせと言う事です。

 そして、形に落とす以上は、価値がある内容にしろ、という事も言われます。よって、何かモノゴトを考えたら、紙としてアウトプットにするのがコンサルタントのお作法。そして、そのアウトプットは価値がないと意味がない、つまり、アウトカムでないといけない、という考えです。

 事業会社では頭で考えた事は、考えたまま頭に留めておく事も一般的でした。そのため、最初はとにかく紙に落とす文化に慣れるまでは非常に苦労しました。ですが、結局は他人でも分かるように紙に落としてまとめて書くと言う事は、思考がまとまっていないと書けないため、紙に落とすことは思考を高めることに他ならないことを経験するうちに、とにかく書く事が当たり前になっていました。

 起業後に、忙しさにかまけて紙に落とさない自分が出始めておりますが、反省しています。紙に落とすことは多少無駄に思えても、思考をまとめる意味でも結局はその方が効率的であり、そして効果的でもあるからです。

「コンサルタントは恒常的自己研鑽が存立の基盤である」

 続いて3つ目です。

 経営トップに付加価値を提供し、そしてアウトプット至上主義でありつづけることは楽ではありません。

 そして、当たり前なのですが、何よりクライアントから依頼される仕事はとても大変なものです。クライアントはその事業のプロなわけです。そのプロが外部の人間に問題解決を依頼してくる。どう考えても、常に自己研鑽が避けられません。

 例えば、コンサルタントはプロジェクトにアサインされたら、3日で、遅くても1週間でその道のプロになれと言われていました。その業界の本やそのテーマの本を死ぬ程読みあさり、関連プロジェクトにアサイン経験がある有識者からインタビューをしまくり、プロジェクトが始まるまでにはある程度その道のプロと話をしても恥ずかしくないように仕上がっている必要があります。

 ただ、業界の知識を得るだけなら、その道30年のクライアントには勝てないです。そのためにどうやって付加価値をつけていくのか。視座を高く、視点を鋭く、視野を広く。過去のコンサルティングの経験を生かしながら、毎回新たな付加価値を提供していく必要があります。

 「自己研鑽」は呼吸と同じくらい当たり前の心構えとして持っていないと、まず生き残れないという環境でした。

 また、コンサルタントは一人一人が商品です。ですので、自らの商品力が劣化したらそれは死活問題です。そして、一番の自己研鑽の場がプロジェクトであったと言えます。

 お金をもらって死ぬ程スパルタに鍛えてもらえる。ある意味幸せな職業でもあります。(笑)

「コンサルタントは大変だが精神的満足の大きい仕事である」

 最後の4つ目です。

 もうこれは魔法です。(笑)

 ディズニーランドでキャスト(決してバイトとは言わない)をするのと同じ位置づけでしょうか。

 会社側からの説明は以下のようなものでした。

「創意工夫と自由意思に基づき、自身を”オンリーワン”の存在になし得る。」

「市場で自身の発想の価値を試すことが可能。」

「経営者、実務者、学者、思想家…様々な存在価値を示し得る。」

 言い換えれば、「コンサルタントはこのように素晴らしい、精神的に満足度が大きい仕事なので本当に死なない程度に死ぬ程働いてくださいね。」と騙されていたとも言えます。(笑)

 今は世の中の環境によりだいぶ甘い働き方になったとの噂を聞きますが、当時は今で言う所の「ブラック企業」と言われてもおかしくない働きっぷりでした。

 ですが、今振り返っても確かに精神的に満足の大きい仕事であったことは事実です。もう一度30代を、あの環境で過ごしたいかと問われれば、間違いなくYesと答えます。

 これは決してコンサルタントだけに限ったことではありません。仕事に対して成果を出し、クライアント(場合に寄っては上司)に評価してもらえれば嬉しいと思うのはビジネスパーソンでは共通の事でしょう。また、自分が成長したと感じることも嬉しいものです。

 コンサルタントに関して言えば、プロジェクト期間が短く、プロジェクト中は土日昼夜を問わず働くため、プロジェクトが終わった時の達成感が強いだけなのかもしれません。(笑)

 こうして書くと、ワークホリックで、ナルシストで、しかも思い込みが激しい非常識な勘違い集団なので、世間から見たら「気持ちの悪い連中」でしょう。(笑)

 ですが、実は戦略コンサルタントは、こうした「心構え」で仕事をしていたということをご理解頂ければと思います。

 高尚な心構えは分かったけど、心構えだけでは行動が伴わないよねと感じる方もいると思います。「実際にコンサルタントはどのようなことにこだわって活動しているのか」という点にスポットを当てて、次回からは戦略コンサルタントの行動規範に関して説明をして行きます。

次回に続く

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