ギックスの本棚/現役経営者が教える ベンチャーファイナンス実践講義
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- POSTED : 2014.02.01 10:48
f t p h l
起業を考える際にお作法を知る教科書
タイトルからは、ベンチャー企業が資金調達を行う際の具体的な手段やスキームなどが記載されていると想像する方が多いのではないでしょうか。かくいう私もそのように想像してAmazonにて発注しました。タイトルとは違い、Start upからExitまで概要を触れた本になります。起業に向けた心構え、概要となる戦略論、会社設立、組織、資金調達、コーポレートガバナンス、上場、出口戦略と言う構成になります。
そのため、まずは概論を知りたい方が読むべき本と言う位置づけになります。
教科書ゆえに、基礎を知るために使うか、辞書代わりに使うか
本書は出だしからベンチャースピリットや概要の戦略、その後設立の中で株式会社とはなどを説明して、次の組織論ではある程度の規模や企業内スタートアップの話、などと続くため、誰を対象に、何を伝えたい本なのか分かり難く、わりとチグハグな内容構成だと言う点は否めません。
ですが、まずは起業を考える前の「起業って何だろう、将来的に渡ってどういう事を行い、そのためにどのような事を考えないといけないのだろう」と考えている方に対しては、起業から出口までの一連の要素が記載されている本として重宝すると考えられます。
また、ベンチャー企業が事業を行う際に必要となる用語やお作法などはある程度押さえているために、最初に流し読みをしておいて、後はベンチャーキャピタリストなどの投資家との会話で出て来た言葉が分からない時の辞書代わりに使うと言う手もあるでしょう。
私は事業会社の経営企画部や戦略コンサルタントの経験があるため、この書籍で紹介されている内容は既にある程度理解できている内容になります。ですが、起業後しばらく経営されている社長であっても、「モノ作り」を主軸に創業された社長にとってはまずは読んで置くべき内容と思います。
残念ながら、私のように資金調達に関して詳しい説明を求めている場合はその目的を果たす事はできない本になりますのでご注意下さい。
何度か書いていますが、本にはいくつかのタイプが存在しています。「最新事例やトレンドを紹介していくもの」、「具体例な事例や考え方などを割と細かく紹介、説明していくもの」、「比較的概念的な考え方を紹介していくもの」、「広く浅く網羅するもの」。この本は起業に関して「広く浅く網羅するもの」に位置されるでしょう。
そのため、本書はエッスンスだけを紹介する事は、ほぼ目次を紹介して行く事に等しくなってきますので、ここでは一つだけおもしろい議論を取り上げたいと思います。
ベンチャー企業と中小企業の違い
本書ではベンチャー企業を以下のように定義しています。
「売上げ・利益・企業価値の急速な成長を、積極的、冒険的な精神(スピリット)を持って目指す企業」 「成長志向」と「積極的・冒険的なスピリット」の2点の有無がベンチャー企業と普通の中小企業との大きな相違点 です。 大きな企業への進化に向けて「成長を目指す」ことこそが、ベンチャーのベンチャーたるゆえんです。
なるほど。この一文を読んだ時に、弊社はスタートアップ企業ではあるが、ベンチャー企業ではなく、中小企業だな、と認識しました。笑
実は弊社はそこまで規模成長を求めておりません。いずれ書こうと思いますが、我々はある程度の年齢で起業したMiddle Aged Startupです。ですので、積極的、冒険的な精神を持っていますが、企業としての成長志向はあまり持っていません。上場を目指して経営している訳でもありません。そして、戦略的には、「ニッチを指向する」と言う事は、「成長を捨てる事である」と十分に理解しています。
起業した各社に取って、きっとミッションや事業目的と言うものが存在するはずです。それとは別に事業上の目標はあるでしょう。目標とは数値であり、その目標数値を達成するために起業する人は稀だと思います。目的を実現するためには可視化のために数値(利益)が必要であり、そのための事業目標も必要です。そして、安定した利益のためにはある程度の規模が必要でしょうから、規模の拡大も必要です。自社の理念に従い自社の素晴らしい商品やサービスを届けたいと言う想いから、規模の追求が目標になる事もあるでしょう。ですが、「大きな企業への進化」が、ベンチャーのベンチャーたるゆえんかは議論の余地があると感じました。
また、ちょうどATカーニーの梅沢社長が以下のような発言をされていました。弊社に非常に当てはまる指向であると思います。
「企業は(1)フルタイムの雇用契約で人材を抱え込み、チームを中心に事業を推進するタイプ(2)必要な時に必要なチームの人をかき集めて、プロジェクトを遂行するオープンイノベーション型(3)両方を組み合わせた中間系という3つのタイプに分かれてきた。特に(2)のプロジェクト型の企業の数や社会へのインパクトが増す流れだ」
実は弊社では(2)の型を指向しています。
「株式会社は一定の資本金を集めるために作られた。資本がそれほど必要でなく、プロジェクトごとに資金を集めれば済むような場合、上場株式会社でなくてもいいと考える起業家は増えてくるだろう」
弊社でもそこまで大きな先行投資が必要ないため、上場を目指す必要性は今のところ感じていません。
「これからの企業はどういうパートナーを周囲に持って、パートナーとの『共創』のプロセスをどうマネージするかが重要になる。資本という強制力を持たないなかで『この人とだから一緒にやりたい』と思わせて、有能なパートナーたちがいつもまわりにいる状態をつくれるような個の魅力も問われる」
まさにその通りで、ベンチャーが採用できる人材も限られている中で、無期雇用の形態になりがちな日本の採用環境に置いて人をフルタイムで採用するよりも、その道のエキスパート達とうまくコラボレーションしながら事業を遂行する「ユニット」をいかにに構築できるか。
そこの縛りを資本ではなく、やりがいであったり、一緒にやれば儲けることができる、などのパートナー関係が構築できれば、そこまでリスクを取らなくても相当な冒険を行うことができますし、その際に成長は必要であれば成長すれば良いものとも捉えられます。
この辺はいずれ機会があれば「GiXoの本棚」ではないテーマで記載していこうと思います。
本書の内容からはだいぶ脱線してしまいましたが、本書はベンチャーに関してまずは一通りの概要を把握したい方、もしくは辞書代わりに使いたい方におすすめです。
f t p h l