ギックスの本棚/GROW 本当のブランド理念について語ろう

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本書に従って「自社のブランド」を理解しよう

著者は、P&Gの元グローバル・マーケティング責任者であり、ブランド価値向上に寄与した人物として知られているジム・ステンゲル氏。世界で五本の指に入る「有名なCMO」と言える人物です。

本書では、豊富な事例をベースに「ブランド」はどうやって確立・維持・発展されるべきかを論じています。また、著者自身のP&Gでの経験を軸として「ブランド」を運営する際の”リーダーシップ”のあり方についても語られているため、現場レベルから、リーダークラスまで、非常に参考になる書籍だと思います。尚、唯一の難点は、非常に多様なことを語っているため、「5つのXXXX」「4つのXXXX」というようなリストが数多く出てきてしまうところでしょう(例えば、5つの行動原則 の1つ目で 5つの基本的価値 に言及する、という具合です)。議論のシンプルさよりも内容の正確さ・詳細さを重んじた、ということであり仕方がないと思いますが、読み手が自分で体系化しないと迷子になってしまうことを危惧します。頭の中で(もしくは、実際に紙などで)図式化しながら読み進める方がベターだと思います。

ブランド=ビジネス

さて、本書では「ブランド」は「ビジネス」と同義として定義づけられています。もう少し正確に言うと、「ブランドは、ビジネスの『優位性』の決定要因である」ということになるでしょう。

p.17)私は、「ブランド」と「ビジネス」を同義語として用いている。あるビジネスの未来にとって最も重要な人たちにとっては、ブランドこそがそのビジネスの本質だ。複数の企業が競い合う市場で利益の獲得と事業の成長を牽引し、社員、顧客、取引相手、投資家に対してライバル企業との違いを示せる要因は、ブランドなのである。卓越した企業と、まずまず良い企業、悪い企業、どうでもいい企業の差を生む要因として、ブランド理念の重要性はますます高まりつつある。

p.18)ブランド理念の力を活用できるかどうかは、卓越したリーダーと、まずまずよいリーダー、悪いリーダー、どうでもいいリーダーの差を生む要因としてもまずます重要になりつつある。

ビジネス(≒収益を生む単位)に合致するものをブランドと呼ぶことで、P&Gなどの消費財メーカーであれば個別の商品レベルまで落とし込まれるでしょうし、アクセンチュア・IBMなどの法人向けサービスの企業では「企業体」をブランドと定義づけることが可能となります。非常に合理的で使い勝手の良い定義だと思います。(ブランディング、という言葉を使う際に、企業ブランドなのか、商品ブランドなのか、などという話になりがちですものね)

優れたビジネスには、優れた理念がある

優れたビジネスには優れた理念があり、且つ、そのリーダーたちが5つの共通した行動原則に沿って行動している、と著者は言います。また、そのリーダーを「ビジネス・アーティスト」と位置付けています。
リーダーの五つの行動原則を引用します。

  • 人間にとって大切な五つの基本的価値のいずれかの側面で、”人々の生活をよりよいものにする”ことに関わるブランド理念を発見する
  • ブランド理念を軸に、企業文化を構築する
  • ブランド理念を社内外に発信し、社員と顧客の両方とそれを共有する
  • ブランド理念に沿って、理想に近い顧客体験を提供する
  • ブランド理念に照らして、ビジネスの進捗の度合いと社員の仕事ぶりを評価する

また、五つの基本的価値とは、

  • 喜びを感じさせる
  • 結びつくことを助ける
  • 探究心を刺激する
  • 誇りをかき立てる
  • 社会に影響を及ぼす

という事になります。

皆さんの会社(若しくは事業)は、このうちの、どの価値を提供しているだろうかと自問してみてください。自社が「どの価値」で人の幸せに貢献しているのか。それが「ブランド」の根幹です。それが明確になったのちには、次の「4つの問い」にチャンレンジしてみてください。

ビジネス・アーティストが問い続ける「4つの問い」
・わが社の未来にとって最も重要な人々のことをどの程度理解できているか
・わが社とわがブランドは、どのような価値を実践しているのか
・わが社とわがブランドは、どのような価値を実践したいのか
・わが社はどのように、これらの問いに対する答えを実際の活動に反映させているのか

どうでしょうか。答えられましたか?これにスラスラ答えられるなら、貴社の経営者、もしくは、ブランド・マネージャー(場合によっては、あなた自身)が非常に優秀で、職責を全うしていらっしゃるということだと思います。

「甘い理想」を「成功への原動力」にするために

著者自身も言うとおり「”人々の生活をよりよいものにする”という理念が大切」「ビジネスを成功に導くうえで本当に重要なのは、ブランドを担う社員」などという「甘い理想」で企業が成功(=成長)できるのか、という意見もあるでしょう。しかし、これは、あくまでも「調査の結果」なのがポイントです。もちろん、調査は仮説検証が基本ですので、示唆が間違っていることはありえます。しかし、「因果」の有無はともかくとしても、ブランド力と業績に「相関」があるのは事実であると証明されたわけです。(因果を導き出すのは、弊社で提唱するところのデータアーティストの領域なわけです。)

マーケティング、ひいては経営そのものは、非常に不確かなものです。成功した、という結果はあっても、その理由は千差万別ですし、再現性に関しては疑問がある理論も多いのが実態です。だからこそ、この「相関」に着目し、自社のブランド力向上に際しては、本書を信じてやってみる、ということも重要だと僕は思います。いきなり、すべてを変えようと足掻くのではなく、自分の手の届くところから、少しずつ、一歩ずつ、変化に向けたトライをすることこそが、ゴールへの近道ですよね。

というわけでまずは、本書のフレームに従って、自社を分析してみては如何でしょうか。「己を変える」のは「己を知って」から、ですからね。

本当のブランド理念について語ろう 「志の高さ」を成長に変えた世界のトップ企業50

 

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