ケンタッキー、ビーコンを全店設置|情報発信の要か?来店分析の要か?(グラーフの眼)
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本記事は、株式会社ギックスの運営していた分析情報サイト graffe/グラーフ より移設されました(2019/7/1)
目次
人の流れを押さえれば「Google Analytics」をリアルワールドに持ち込める
本日は、日経デジタルマーケティング5月号より「ケンタッキー、今夏にビーコンを全店設置へ アプリも刷新して情報発信の基盤を整備」を取り上げます。
記事概要
日本ケンタッキー・フライド・チキンは、近夏にも全店にビーコンを設置する。当初は「ケンタッキーフライドチキン 公式アプリ」への情報発信端末として活用するが、今後、単なる情報発信端末に留まらず、決済の仕組みとの連携など、活用の幅が広がることを見越して、1100店超への導入を決めた。
ということで、まずはビーコンを設置することは決まった、とのことですね。さらに
刷新したアプリでは店舗検索、メニュー、一律配信のクーポンのほか、顧客の過去の購買情報やよく利用する店舗、位置情報などを基にした、個別の情報発信を目指す。そのため、アプリの利用者にはKFCが加盟する共通ポイント「Ponta」のIDを登録してもらい、Ponta提示者の購買情報に基づいた情報発信の基盤づくりを狙っている。
ID連携による「”個”客へのアプローチ」を考えているようです。ここで重要なのは「Ponta」です。
利用者拡大に合わせて、機能の拡充も進め、将来的には、Ponta IDと連携した、顧客ごとにカスタマイズした情報やクーポンの配信の実現を目指す。
Pontaとは?
Pontaは、T-Point(ツタヤ)と同様に、複数のチェーン店でポイントが貯まる「共通ポイントサービス」です。三菱商事系であるため、同系列のローソンで導入されていますので、目にしたことがある方も多いでしょう。
ローソン、昭和シェル、ゲオの連合で導入されたのちに、徐々に加盟事業者を増やし、最近ではリクルートの「リクルートポイント」との連携が話題になりました。
共通ポイントサービスは、何が良いのか?
この共通ポイントサービスを、事業者が導入する最大の理由はなんでしょうか?お客様にポイントを沢山付与して便利になってもらいたい、というのは勿論あるでしょうが、慈善事業ではない事業者は当然「マーケティングに使いたい」と考えています。
この場合「ID-POSとして使う」ということになります。(関連記事:ID-POSとは / ID-POS分析とは )
一般的に、POSデータの分析だけでも、いろいろなことが分かりますが、「さらに一歩先」を目指す企業は、ID-POSを用いることで、さまざまな施策を企画し、結果検証をすることができます、
油断すると、宝の持ち腐れ
とはいえ、当然ながら、ID-POS分析をするために共通ポイントサービスに加入した場合、原資がかかります。端的にいえば、「ポイントを付与したが、他のチェーン店で使われてキャッシュアウトが発生する」というような状況ですね。そうでなくても、ポイント=実質は値引き、なわけですし、共通ポイントにすることで、管理コストも上昇します。また、場合によっては、他チェーンのデータを利用する際には費用がかかる、ということも起こります。(この辺りは、さまざまな契約があります)
そこまでのコストをかけて、ID-POSを保持する意味があるのか、はしっかり考えるべきです。
果たして、ケンタッキーはPontaでID管理する必要があるのか?
ビーコンを使い、情報発信をするというのはわかります。そして、その情報を”個”客別にカスタマイズしたい、というのもわかります。
しかし、Pontaで他チェーンでの購買行動などまでまとめて押さえる必要があるのでしょうか。(もちろん、”あったほうがいい”のは否定しません)
あるいは、もっと言うと、本当に「ID-POS」である必要があるのでしょうか。そこでわかることは、「山田さんは、いつも、フライドフィッシュを買う」「吉田さんは、クーポンを必ず使う」「鈴木さんは、月に一度、必ず8ピースバリューパックを買う」というようなことでしょう。もちろん、それはそれで面白い示唆をだせるかもしれませんが、その前に、いろんな分析の余地があるように思います。
但し、KFCの場合は、既に徹底的にPOS分析やりつくして、その上でのID-POS分析への踏み込みを狙っているのかもしれません。その場合は、ID-POSを利用する必然性があります。また、自チェーンだけではライフスタイルが抑えられないため、他チェーンの購買情報も用いて、もっと多様な顧客セグメンテーションを行って各種プロモーションを打ち、個別セグメント毎に詳細な効果検証をする、ということならばPontaで情報を活用していく価値もあるでしょう。
しかしながら、多くの企業では、本当の意味でPOSデータを分析・活用しきっていないように見受けられます。そんな状況で、一足飛びでID連携を行い、個別最適なクーポンを打ち込むことが「全社の戦略」と不整合を起こしていないのか、を立ち止まって考えることが重要ではないかと思います。
見るべきは来店傾向ではないか
ID-POSと連携すること自体は悪いことではありません。実際に、活用領域は非常に広いです。しかし、重要なのは「目的」です。果たして顧客のライフスタイルを押さえることで、本当に「売上向上」あるいは「顧客満足度向上」に繋がるのでしょうか?
KFCの場合、いままでとれていない「来店状況」をしっかりととることが、ビーコンの最初の一歩ではないかと思います。
まずは(中略)GPSの位置情報に連動した情報発信を4月から始める。アプリ利用者が、店舗を中心とした設定範囲内に入った時にだけ、特別なクーポンを配信する。
次のフェーズではビーコンを活用いて、店内での情報発信をする。
この2段階で情報をプッシュする、ということは、即ち「店のそばに来た」ということと「店内に入ってきた」ということがわかる、ということです。
つまり「近隣を通過したアプリ利用者」を母数として、「店内に入ってきたアプリ利用者」を分子におけば、来店率が分かります。これを「クーポンの有無」あるいは「クーポンの種類」によって分析していけば、クーポンの効果を計測することができます。これは「Google Analyticsを現実世界・リアルチャネルに持ち込む」ということだと思うのです。
尚、ここで、重要なのは、「クーポンを配布しない場合の来店率」を最初に計測することです。平常時が無いと、なんらかの施策を打った際にどの程度”効果があった”のかを判定することができません。
今回のKFCのビーコン導入は、非常に興味深い取り組みです。だからこそ、安易にID-POS分析に踏み込むのではなく、もっと簡単に取れる情報による仮説構築・仮説に基づく施策実行・結果検証のプロセスを高速にまわしていくことを期待して、続報を待ちたいと思います。
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