ギックスの本棚|アクセンチュア流 生産性を高める「働き方改革」:カタチではない。魂の問題だ。
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- POSTED : 2017.09.17 21:06
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目次
この本の表層をなぞっても、幸せにはたどり着かない
本日は、僕がかつてお世話になった心の故郷、アクセンチュアで現社長を務めていらっしゃる江川さんの著書「アクセンチュア流 生産性を高める「働き方改革」」を取り上げます。
アクセンチュアがやるから、意味がある。
アクセンチュアという会社は、激務で有名です。その中でも、僕が所属していた戦略グループ(現在のアクセンチュア・ストラテジーとは厳密に言うと違う組織だと思います)は、とりわけ、激務度が高いチームだったと思います。
長時間労働は当たり前。時には徹夜も辞しません。全てはクライアントの成果の為に!欲しがりません、最終報告までは!
そして、その対価として、高い給与と”圧倒的成長”を貰うわけです。
と、書くと、なんだか宗教じみたブラック臭ただよう、意識高い系企業な感じがしてきますが、僕が在籍していた00年代後半頃は、それはそれで、結構楽しかったなという気持ちがあります。(お陰様で、”圧倒的成長”も獲得できました。)
そんなアクセンチュアさんが、まさかの働き方改革、ですよ。アクセンチュアOBの間で話題になっていたのですが、いやー、俄かには信じられませんね。何言ってんすか、先輩。って思っちゃいますよね。戦闘系マンガ的なやつで言えば、
???「アクセンチュアが激務をやめた・・・。ふっ。奴は四天王の中で・・・いや、弱くないぞ。むしろ強い方だぞ。まぢで?大丈夫?え、うちら、大丈夫!?」
ってなるやつですよ。
というわけで、どんな感じなんすか。お手並み拝見させていただきましょう、と読んでみたわけです。
改革アプローチは、まさに「コンサル」
まず、この書籍で描かれる改革のアプローチは、コンサルティングファームらしさが漂う(というか、それしかない)正統派アプローチでした。ショートカットはありません。愚直なまでの王道アプローチ。
ざっくりと、その流れを追うと・・・
- 最終ゴール(目指す姿)を決める =進むべきベクトルの方向を定める
- その状態を「理想形」として、具体的なシーンに落とし込む =ズレが無くなる
- 3年という中期的なロードマップを引く =5つのマイルストーンを設定し、進捗を管理
- 役員を含めた体制づくり =実効性のある管理体制・推進体制により、推進を担保
- 全社員に、自分毎にさせるKick-Off =本気でやるんだよ、という意思表示
- 時間の効率性を最重視するというシンプルメッセージ =あれもこれも、と言わない勇気
- コア・バリューの”超訳” =日本語で伝える(伝わる)ことに注力
- PDCAのためのKPIセット =進捗管理の徹底
- TOPからのダイレクトメッセージ =本気度の提示
- マネジング・ディレクター(昔でいうパートナー)200人を一堂に会してアクションプラン策定 =ガチのコンサルに本気で改革案を出させる
- 評価制度の変更 =”生産性”が高いことを評価するという、会社の姿勢の具現化
という感じです。
改革プロジェクトをやったことのある人なら「あるわ。それ、”改革あるある”やわぁー」と言う、躓きポイントを網羅的に潰しこんでますよね。プロ感あるわ。そして、これをやったら、そりゃ、成果出るわ。と頷けます。
そして、本気度が凄い。まぢでやるからな、を、知らしめるために、あらゆる手段を講じてます。この本の出版そのものも「社内外に、本気だと知らしめる」という意図が多分に含まれていると思います。(想像ですけど)
アクセンチュアさん、、、もう、僕の知っていたあなたじゃないのね・・・(遠い目)
価値を出すことが前提
しかし、本書の内容を読んだ事業会社さんが、このやり方を形式的にトレースしたとしても、おそらく実りは少ないでしょう。なぜか。それは、前提が違う可能性が高いからです。
アクセンチュアの場合、本質は、激務時代と変わっていません。一言で言うと「バリューベースで考える」という思想です。
つまり、今回の働き方改革の目標となっているのは、あくまでも「価値の出し方」の話であって、誰も「価値を出さなくていい」とは言ってないわけです。
私もこの活動の中で何度となく、以下のように宣言しました。
「我々が目指すのは、単なる早帰り運動ではない。きちんといままでと同じくらいの品質を保ちながら、余白を作っていくのだ」
「これまで10時間かかっていたのを8時間にして、余った2時間でチームや個人がより伸びていく時間にあてて欲しい」
とりわけ私たちのプロジェクトの仕事は、何時間働いたから、いくらもらえる、というものではありません。
必要なことは、成果です。成果を出さなければいけないのです。
自分がやるべき仕事を時間内に収めるよう努力して、帰るのであれば、まったく問題はありません。しかし、終わっていないのに「今日は8時間、働いたので帰ります」というのは責任感の欠如です。
やらなければいけないのは、本人もその場で終われる努力をしないといけない、ということです。そしてもし終わりそうもないのであれば、業務の再配分など、上司も含めて事前に対策を講じなければいけません。
この大前提を理解しないで改革に取り組むと、江川さん(著者)の言うところの「単なる早帰り運動」で終わります。
大切なのは、Howではありません。Whatであり、そしてWhyなのです。
ダイバーシティとは何か
さて、ここからは、僕の極めて個人的な思いです。本書の内容とは直結しませんのでお気を付けください。
ダイバーシティ(多様性)という言葉があります。本書の中でも度々登場します。ダイバーシティの詳細な用語説明は省きますが、多様な働き方を認めるということを前提に考えると、「定時に帰る自由」もある反面、「労働時間外も働く自由」もあって良いはずだと僕は思います。
本書から、評価指標の変更に関する記述を抜粋します。
「同じアウトプットを出しているのであれば、むしろ時間をかけなかったほうがパフォーマンスがよい」と定義することにしたのです。
同じ仕事の品質であれば、10時間でやる人よりも8時間でやる人の方が評価される。考えてみれば、当然のことです。それだけ生産性が高い、ということになるからです。
そこで、アウトプットが同じ100なら、早く帰った人の方が有能である、という評価のルールにしましょう、ということを会社が定めたのです。
ええ。まさに、その通りだと思います。
ただ、僕のような性格のねじ曲がった人間からすると、この行間には、確かに「8時間で100のひと > 10時間で100の人」ではあるが、「8時間で100の人 < 10時間で125の人」という意味がこめられていますよね?と思ってしまうわけです。
あるいは、8時間で業務を終えた後、寝るまでに6時間あるとして、その6時間で「明日の生産性を1%でも向上させるための努力をする人 > 特に何の努力もしない人」という不等式も成り立ちますよね?なんてことも思うわけです。
少し前に話題になった「下流志向」から、抜粋します。書籍の主張全般に同調するかはさておいて、この一文には、なるほどなと頷きました。
「努力と成果の相関がもはや信じられない」リスク社会において、それでもなお「努力と成果の相関を信じることのできる」人々が社会的リソースを獲得する可能性が高い。反対に、将来の予測が立たず、努力が水泡に帰す可能性が高いというリスク社会の実相をリアルに見つめている人々の方がむしろ選択的に社会の下層に降下してゆくことになります。(p.99)
もちろん、長時間労働や、尋常ならざる努力を誰か(特に、所属する会社)に強制されるのはダメでしょう。しかし、それこそが「選択」だと思うのです。学ぶ、とか、成長、って、そういうものだと思うんですよね。誰かに頼まれたからやるものではない、と。
ワークライフバランスは、選択だ
過去記事でも書きましたが、僕は、ワークライフバランスとは、選択である、と思います。
ワークライフバランスは、選択
毎日定時に帰るワークライフバランスもあれば、40年間の最初の20年をワーク100:ライフ0にして、40歳過ぎでアーリーリタイアメントをするのも、ひとつのワークライフバラスだと思うのです。(もちろん、極端な例ですけどね。)
個人的には、人生の前半に厚めに仕事をしておいた方が、後半に取り得るオプションも広がるので、お勧めだと思います。(人生の前半にワーク:ライフを50:50にしていると、後半はワークを50以上に増やすオプションしか選択できません。)
しかし、いずれにしても、この「選択の幅」を広げるためには、本書に書かれているような「定時に帰る自由が保障された世界」を作らないといけません。(それは、くどいようですが、定時に帰らないといけない世界、ではないと思います。)
アクセンチュアという、激務・長時間労働で価値を出すのが当たり前、という文化の企業が、この短期間でここまで大きな変貌を遂げたのは驚くべきことです。また、その方向性も、単に労働時間を短くするのではなく、正しい意味での生産性向上を実現するという適切な方向を向いています。(関連記事:あなたの求める生産性って何ですか?)
顧客への提供価値を毀損することなく(=企業としての競争力を損なうことなく)、ワークライフバランスを実現するアクセンチュアの取り組みを知り、自分たちの「価値とは何か」を問い直すことが重要です。さらりと読み流すのではなく、本書を題材として、己の働き方を熟考・再考する切っ掛けとすることを、強くお勧めします。
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